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教えよう - ボールゲームの分類論からの検討

教えよう

ボールゲームの分類論からの検討

さて、タグラグビーを含む新しいボールゲームの可能性を考えてみるにあたり、ここで検討のための基礎知識としてボールゲームの分類論を押さえておくことにしましょう。世界中には、ボールゲームと呼ぶことができる運動種目が数百もあると言われています。スポーツ発祥の地であるイギリスで生まれたサッカー、ラグビーをはじめ、アメリカで生まれたバスケットボール、野球、またその他の国々にも多様なボールゲームが伝えられていて、実に数多くのボールゲームがこの地球上には存在しています。しかしながら、このように種々さまざまな形で我々の前にあるボールゲームも、表に示したように大きく4つのグループに分類することができるのです。


表 ボールゲームの分類

第1のグループは、双方のチームがコート上で入り交じって攻防する「攻守混合系」です。これはさらに、ボールを手で投げたりとったりしながらゴールをめざすバスケットボールやハンドボールに代表される「投捕ゴール型」、ボールを足で蹴りながらゴールをめざすサッカーに代表される「蹴球ゴール型」、そしてボールを抱えて走ることで陣地を前進させながらゴールをめざすラグビーやアメリカンフットボールに代表される「陣取ゴール型」の3つに細分されます。

第2のグループは、双方がネットをはさんで別れて攻防する「攻守分離系」です。これは、集団がネットをはさんで対峙するバレーボールに代表される「集団ネット型」と、個人ないしペアがネットをはさんで対峙する卓球やテニスに代表される「対人ネット型」の2つに細分されます。第3のグループは、双方のチームが攻守を交代しながら攻防を繰り返していく「攻守交代系」で、これはソフトボールや野球に代表される「ベースボール型」と呼ばれるものになります。最後に第4のグループとして、プレーヤーが手元にあるボールをある目標に向かって移動させる攻撃行動だけが交代していく「攻撃交代系」というゴルフやボウリングに代表される「的当て型」があります。

この分類論を踏まえた上で、これまで小学校で教えられてきたボールゲームについて検討してみると、次のようないくつかの特徴を指摘することができるでしょう。まず、これまでの小学校の体育では、攻守混合系の投捕ゴール型と蹴球ゴール型に量的にやや偏って教えてきた面があるということです。というのも、中学年でポートボールとラインサッカーを教え、高学年でもバスケットボールとサッカーを教えてきたというのが一般的な姿だからです。このような偏りに対し、前回(1999年) の学習指導要領の改訂では、小学校で教えるボールゲームにはじめて攻守分離系の集団ネット型のソフトバレーボールが加えられて、子どもたちの学習経験の幅を少し広げることとなりました。

また、攻撃交代系の的当て型は、ゴルフやボウリングと聞くと体育の授業とは縁がないようにも思えてしまうのですが、以前から小学校低学年の授業でよくおこなわれてきた積み上げた段ボール箱を的にするようなボール投げ遊びはこの攻撃交代系に入ります。そうすると、攻守交代系のベースボール型はハンドベースボールやソフトボールで教えられてきたわけですから、これまでの小学校体育では、攻守混合系の陣取ゴール型と攻守分離系の対人ネット型の2つは教えられてこなかったということもここで指摘できるでしょう。

もちろん、これらが取り上げられなかったことには理由があるはずです。たとえば、ラグビーやアメリカンフットボールといった陣取ゴール型は、タックルをはじめとする身体接触があることが小学校の体育授業で学ぶ運動としてはふさわしくないと考えられたのでしょうし、テニスなどの対人ネット型は、ラケット操作が小学生の発達段階から見てやや難しいと考えられることと、1つのコートで2人ないし4人しかプレーできないという形式が、40人規模の子どもたちに対しておこなわれる体育授業における運動量の保障という面から見ても難しいと考えられているように思われます。

タグラグビーは攻守混合系の陣取ゴール型のボールゲームですから、全国で広がりつつある小学校体育でタグラグビーを教えるという実践は、これまでは取り上げられなかった陣取ゴール型の運動を体育の授業で教えるというまったく新しい取り組みです。それでは、どうしてタグラグビーはこのように小学校で教えられるようになってきたのでしょうか。

確かに、陣取ゴール型がこれまで小学校で教えられなかった主たる理由である身体接触はタグラグビーから排除されていますが、いわば阻害要因が取り除かれたというだけではそれを取り上げる積極的な意味はないはずです。そういった次元を越えた、タグラグビーという運動種目が持つ可能性について、“いま小学校で求められるボールゲームとしての「タグラグビー」の魅力”で、さらに詳しく探ってみることにしましょう。

※小学館「公式BOOK だれでもできるタグラグビー」編著・鈴木秀人より引用

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